INTERVIEW 19 石川早苗 SANAE ISHIKAWA

幼少期からピアノ、演劇などに親しみ、高校入学とともにヴォーカルを始める。大学卒業後、プロ活動を開始し、次第にジャズに傾倒。2007年に『Feel Like Makin' Love』をリリースし、ジャズ専門誌から絶賛を受ける。年間200本を超える精力的なライヴ活動のほか、ヴォイストレーニング講師としても活動。現在、ニューアルバム『Seasonal Japanese Songbook “冬 –Winter–”』と『Grown-up Christmas Gift』を11月1日に発表。『Seasonal Japanese Songbook “春 –Spring–”』を3月1日発表予定。
『Seasonal Japanese Songbook Project』を進行中

歌うという概念を
ジャズが一瞬で変えてくれた

[P] ENZO / [TEXT] ENZO

昨年11月に2枚同時リリースに続き、矢継ぎ早に『Seasonal Japanese Songbook “春 –Spring–”』を3月1日発表予定。それまでのすべての音楽活動を辞め、飛び込んだジャズの世界。もがき苦しんだ時期を経てつかんだ、歌うこととは。ジャズシンガー・石川早苗さんにお話をうかがった。(後編)

ジャズマンの楽器が歌ってる!
歌を1ミリも歌えてなかったんだという事実

――ジャズに目覚める前の活動は?

大学に入ってから軽音部とかも見にいったんですが、あまりピンとこなくて。大学2年生の途中までは、音楽活動をお休みしてました。でも、やっぱり歌を歌いたくて……。
2年生の秋、知り合いに曲を作っているという学外の人を紹介してもらえて、その人と一緒に音源作ってはレーベルに送ったりしてました。メジャーデビューを目指して。
その人はすごいかっこいい曲を作る人で、結構いいところまでは行ったりしたんだけど、なかなか難しいですよね。その頃、同時にアカペラの事務所にも所属していて、並行して活動していました。

――そこからジャズへ傾倒されたのは、どうしてでしょうか?

その頃の私は、売れたいとか、認められたいとか、そういう思いがすごく強くて。人の目をすっごい気にして音楽をやってたんです。自分を見失っているというか……。自分を否定して、売れそうなものになろうとしていた。とても苦しい時期だったんです。
そんな時に、ジャズに出会って。インストゥルメンタルだったんですけど、楽器をやっている人たちが歌ってる! って感じたんです。

――楽器の人たちが歌ってるというのは?

もともと私はインストゥルメンタルが苦手で、歌が入っている音楽をよく聴いていたんですが、楽器の音が全部歌に聞こえたんです。自分の音楽観というか、歌うことに関する概念が、パーンと変わってしまうくらい、雷に打たれたような衝撃で。
私は今まで声を出して歌詞を歌っているから、歌っていると思っていたんだけど、歌なんて1ミリも歌えてなかったんだって思いました。歌とはなんぞやみたいな、価値観が一気に変わってしまうくらい、すごい衝撃を与えてくれたのが、ジャズだったんです。

――それは確かに、すごい衝撃ですね。

そうなんです。そこからもう、ジャズをやりたーい! ってなっちゃって。今までやっていた活動を全部ストップして、「私、ジャズをやります!」って宣言しました。

――その時聴いたのは?

Sonny Rollins 『Saxophone Colossus』。Max Roachのドラミングにはすごい衝撃を受ました。そしてMax Roachつながりで『Dinah Washington with Clifford Brown』を聴いて、もうこれだっ! ってなりました。

――ジャズシンガーを目指されて、どんな活動を?

ジャズをやろうと思っても、私はジャズ研にいたわけでもないので、どうやったらジャズのお店でライブができるのかもわからなくて。その時に丸山繁雄先生のライブを聴きに行ったら、すごい感銘を受けて。「弟子にしてください」と、その日にはもうお願いしてました。そうしたら、「じゃあ、来週から来なさいよ」って、いっていただいて。

――すごい行動力ですね。丸山繁雄さんからは、どのような教えを頂いたんですか?

先生から最初に、「あなたが身につけてきた歌い方を、一旦全部捨ててみなさい。あなた、なかなか歌もうまいし、それなりに自分をもっているんだけど、あなたがもっと大きくなるためには、1回全部フラットにしてみたら、もっと大きな世界が広がるはずだよ」と、いっていただいて。
もちろん歌い方というのは個性だから、なくしちゃいけないんだけど。そういうことじゃなくて。無意識に染みついたクセや、テクニックと思っていた歌い方を、1回フラットにすることによって、地力がすごい上がった気がしました。客観的に自分の歌を見られるようになったし、ごまかして歌っていた部分というのもわかって、見直すきっかけになりました。あと、英語の発音、リズム、基本的なことは徹底的に叩き込んでいただきました。

自分を受け入れることからすべては始まる
歌うということは自分を愛するということ

――それから3か月後にはジャズの初ライブを経験されてますよね?

先生のところでグループレッスンとかもあったので、仲間ができて。いろんなジャズクラブや、セッションをやっているお店を教えてもらい、遊びに行くようになったんです。すると、ウチで歌わないかと、声をかけていただけて。

――それをきっかけに、ジャズの世界に飛び込んだわけですか?

そうです! といいたいところですが、ひょんなことからあるアカペラのコンテストがあることを知って、事務所時代の仲間に声をかけてみたところ「挑戦してみよう!」ということになって。 アカペラの活動をやめてジャズの勉強を始めたのに、またアカペラをやることになりました。それで、ジャズと並行して「Baby brothers」というグループもライブ活動を3年半くらいさせていただきました。

――アカペラをやってきたことによって得たことは?

アカペラは無伴奏なので、ピッチとか音程とかリズムとか、ごまかしがきかないんです。自分だけ合っているというのもダメで、みんなに合わせて変えていくことも必要だし。すごい鍛えられました。人の音を聴いて歌うという訓練になったと思います。

――今では年間200本を超える、精力的なライブ活動をされてますが、体調管理はどうされているんですか?

寒い時は乾燥するのでマスクをするとか、眠る時に喉やデコルテのあたりを冷やすのがよくないので気をつけています。
でも、夏はクーラーつけて寝ちゃってます。やっぱり睡眠不足が一番ダメで。リカバリーが効かないんです。声がカスカスになっちゃう。本当はクーラーをつけたくないんだけど、眠れないよりマシなので。

――石川早苗さんにとって、ジャズを歌うということは?

自分を生きるということ。自分であることを全うすること。
20代の苦しかった時期は、自分を否定して生きていたから。歌うのが楽しかったはずなのに、歌えば歌うほど自分が嫌いになっていくし、悲しくなっていくという、負のスパイラルに陥っていたんだけど、それを救ってくれたのがジャズで。ジャズは私に、自分を受け入れることからすべては始まるし、自分を生きることが歌なんだと教えてくれました。歌うということは生きること、自分を愛していくということかな。

――『Seasonal Japanese Songbook Project』の話に戻りますが、日本の名曲をジャズで歌うにあたって気をつけている部分というのはあるのでしょうか?

ないです(笑)
自然に、好きなように、楽しく歌ってます。

――今後の抱負は?

このプロジェクトをやりきる! いい形でやり遂げる!
シリーズ作品としていい作品にしていきたいんです。
もちろん日々のライブは一生懸命、楽しく歌いながら、この作品もワクワクしてもらえるようなものにできるように全力を注いでいきたいです。
『“春 –Spring–”』は矢継ぎ早に、2019年の3月1日にリリースを予定してます。
『“夏 –Summer–”』と『 “秋 –Autumn–” 』は、2020年の夏、秋にそれぞれリリースできるように準備を始めています。楽しみにしていてください!

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RELEASE

ジャズボーカリスト石川早苗によるJ-POPの名曲を「四季」にフォーカスしてカバーするプロジェクト「Seasonal Japanese Songbook 第2弾『春 – SPRING -』3月1日リリース予定。

2019年3月1日発売
album
Seasonal Japanese Songbook Project
春 -SPRING-

MOVIE